大きな建築を目指して

2016年06月04日 15:31

去年の12月より、苦心して設計し、監理した建物が竣工した。用途はトイレ。女性専用のトイレ棟である。元々別の用途の遊技場を設計していたのだが、施主より、追加注文でトイレ棟を建てることになった。

施主からの要望は、トイレの個数とステンドガラスを使うこと。それ以外は、配置計画からプラン、外装に至るまで、こちらに委ねられた。施主より、個人的に私に依頼があったことと、小さな建物であるが故、社内でも、ほぼすべて自分の意志でものを決定することができた。(実際には、工程がなく、現場から施工図も十分にあがってこなかったため、上司に承認を取る余裕がなかったということもあるが・・・)

「ステンドガラスを使う」という施主要望は、「女性が来たくなるような空間」ということを意味しているようで、そのために、どこにでもあるような無機質なトイレではなく、何か惹きつけるものがなくてはならない。また、男性が主体となり、大きなエンジン音と共に遊ぶ施設のなかで、静寂な空間が必要だと思った。それらのイメージから、擁壁で他と縁を切り、小さな坪庭を設け、地窓を介し内部空間と一体となるようなプランを作成した。

しかし、小規模な平屋である上に、ステンドガラス(風)窓、木を使用した円弧窓や壁から片持ちのベンチ。うねる天井に枯山水の庭など、通常よりもコストアップとなり、当初施主は抵抗した。しかし、施主と個人的な対話のなかで、私の考えに賛同頂き、コスト高だが、この案でいくと言ってくれた。その後は「あなたがそう考えるなら、それで良い」と、ほとんどの物決めは、こちらで意志に委ねてくれた。逆にいえば、失敗できない状態になった。

現場がゴタゴタし、設備設計がこちらの空間意図を理解してくれないこともあり、小さな空間であるのに、かなり手間がかかった。社内では、別の大型案件が動いており、この小さな仕事に精を出すことは、雰囲気的にも許されないものがあった。週末や外出先で、出来るだけ一人の時に空間を詰めた。

5月末竣工に向け、急ピッチで工事が進むと、当初自分の意図した空間が成立しているか不安だったが、段々とグッとくるものがあった。しかし、現場は仕上げに入る前あたりが、もっとも美しく見えてしまう傾向にある。それゆえ、仕上げ段階でも気を張り、方向がずれないよう注視し続けた。

内装ボードが貼られ、各所塗装が、クロス貼りが進むと、やはり、何となく違和感を覚えた。確かに、想像した空間通りであるし、むしろ、奥行き感等は想像以上なのだが、何か腑に落ちない。やはり、人口建材では、空間が軽くなってしまうのだろうか。自分で撮影した写真を時々見ながら、色々思案した。

施主検を迎え、ほぼ完成の時、私は何度も自分で設計監理した空間を体験しては、その意味を探していた。当日、私はふと想い、茶碗とリンゴの置物を持参した。飾棚に茶碗をおいてみたのである。

すると、一気に空間は完成した。

開け放たれたドアを閉め、一人枯山水の庭と共にベンチに座ると、この空間が初めて成立したことを知った。これはしびれる感覚だった。化粧室は、少し無機質に思えたので、リンゴを差し色で添えた。

この建物に入る人のリアクションは人それぞれである。「なんじゃこりゃ」とただ驚く人もいれば、「料亭か」という人もいた。私に対し「ポルコさん、侘び寂びっすか?」という人もいれば、木の円形窓をみて「船の船客みたい」という人もいた。女性の一人は、私が選んだ飾り窓を「かわいい」と言ってくれた。その逆に、「金かけ過ぎでは?」という人もいたが、誰でも何かしらリアクションがあった。そして、リアクションがなかったのは、私の設計上司達であった。その理由はわからない。質が悪いと感じたのか、或いは、別世界であり評価軸に乗らなかったのか・・・。

施主のキーマンは大喜びしてくれた。「ポルコさん、やってやりましたねぇ!」と言ってくれた。しまいには、何か絵をかけたいから、どのような絵をどのようにかければ良いか、相談に乗ってほしいと言われた。この案件は、丁番一つまで気を使ったが、まさか施主の備品まで決めることになるとは。

茶碗を置いた時思ったが、私が建築を思考出来る範囲は、きっとここまでなのである。茶碗ひとつまで思案できる空間、それ以上になると、自分の許容範囲を超えてしまう。それは、きっと小さい空間なのだろう。でも、これまで関わった建物で、これほど、一人ひとりが感想を持ち、何かしら語ってくれることはなかった。石や木も、僅かながらささやいてくれる。

私にとっては、それはとてもとても、抱えきれない程大きなことである。

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コメント

  1. 静岡のY | URL | -

    Re:大きな建築を目指して

    ここでのコメントは久しぶりです。そして竣工おめでとう!西方面へ行く際は、妻にその建築を利用してもらおうと思います。楽しみにしてます。

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